サンジの“裏切り”についての解釈
「帰れ下級海賊共」。
「おれの名はヴィンスモーク・サンジ」。
「あんな手紙真に受けてんじゃねェよ!おれは戻らねェ!!」
「急な事で現実を受け入れ難ェだろ」。
一時的とはいえ、サンジが裏切って脱退してしまいます。
ただ、それまでのストーリーを読んでその理由を知っている我々にとっては、コレが本心じゃないのは承知の上。
そして85巻で、サンジは無事にまた仲間に戻る運びになるのです。
戻るのですよ。
戻るのですがね。
まあ〜この時は、何もそんなヒドい態度とらなくても・・・とワンピースファンなら誰もが思った事でしょう。
そう、コレはルフィへの、そして一味への明らかな“裏切り”です 。
信頼しあう仲間にとっては最悪の行為です。
そしてルフィに対して「名前なんだっけな」「おまえが海賊王になれるかどうかも疑わしい」とまで言い放つサンジ。
挙げ句の果てには、無抵抗のルフィを力の限り痛めつけます。
なぜそこまでする必要があったのか。
サンジの一連の行動を含め、もろもろ掘り下げて考察してみましょう。
サンジが脱退しなければならない理由
まずはそう、“脱退の理由”はハッキリしてるんですよね。
コレがサンジの本音で、脱退の本当の理由です。
・“東の海”の海上レストラン“バラティエ”をジェルマから守るため
・麦わらの一味をビッグ・マムから守るため
この2点。
さらに「おれの冒険はここで終わりだ」っていう覚悟まで決めています。
わからないのは、なぜそのために“裏切り”を演じなければならなかったのか。
もっと他の方法があったんじゃないか。
ということなんですよね。別れるにしても。
んー・・・たとえば、正直にワケを話して諦めてもらう、とか。
それか、その場をごまかしとりあえず引き返してもらう、とか。
または、ルフィ達にも事の解決に向けて協力してもらう、とか。
大好きなナミさんを威嚇して怖がらせてまで、なぜあんな事をしたのでしょうか。
これについてはどこにも記述が無いので、読み解くしかありません。
とにかく順番に整理してみましょう。
サンジ離脱の理由
まずサンジは最初から脱退すると決めていたわけではないんですよね。
一時的に離脱して、事が済んだらまた戻るつもりだったのです。
その一時離脱の理由はと言うと、ビッグ・マムのお茶会に誘われたから。ですよね。
で、このお茶会は、=サンジの結婚式です。
なぜいきなりそんなことになったかというと、実はサンジは“ヴィンスモーク家の三男”だったからなんですね。
ヴィンスモーク家とは
一応軽くおさらい。
ヴィンスモーク家とは、かつて“北の海”を武力で制圧した王族の名前。
なんと、サンジは王子だったのです。
国の名は「ジェルマ王国」。
国の軍隊は「ジェルマ66(ダブルシックス)」と呼ばれる科学戦闘部隊。
ジェルマの誇るその“科学力”こそが、いまビッグ・マムが欲する物なのです。
政略結婚の“生け贄”がサンジ
さて、そんなジェルマの科学力を手に入れるため、ビッグ・マムはジェルマに“政略結婚”を申し入れます。
一方、ジェルマはジェルマで、“北の海”征服のためビッグ・マム海賊団の力を借りたいようで。
ここにウィンウィン関係が成り立っています。
でも大切な王子たちは、イカれたババアの所なんかに婿に出したくない。
そこで、もうヴィンスモーク家とは縁を切っていたはずのサンジが、“生け贄”として呼ばれてしまった、というわけなんですね。
サンジにしてみれば、完全に不測の巻き込まれ事故。
「もう二度とおれの前に現れないハズの過去」。
もちろんサンジはそんな結婚は断固しないつもり、でした。
元々のサンジのプランでは、お茶会には出るが結婚はしない、お茶会が終わったら仲間達の元へ戻る。というつもりだったようです。
「ママの茶会にゃ地獄の鬼も顔を出す」
だったらお茶会にも出ずに「招待状」は無視しちゃえばいいと思いますが・・・。
それは絶対に出来ないのです。
「ママの茶会にゃ地獄の鬼も顔を出す」と言われていますからね。
もし断ったり、行かなかったりしたらどうなるか。
後日、「そいつに関わりのある誰かの首」が届くのだとか。
つまり、サンジがお世話になった誰かを人質を取られているわけで。
だからサンジはどうしても、お茶会には行かなくてはなりませんでした。
で、先程の「必ず戻る」につながるわけなんですね。
「野郎共へ 女に会ってくる 必ず戻る」
茶会には出て、結婚はせずに、ヴィンスモーク家とは今度こそ完全に縁を切って、また仲間達の元へ戻る。
これがあの手紙に秘められた意味です。
「野郎共へ 女に会ってくる 必ず戻る」。
この時点で本当に戻る気がなかったらこんな別れ方はしないハズ。
ゾロもそう言っています。
ケジメというやつですね。
しかし、ふたつの理由で戻れなくなってしまいました。
ひとつは、自分の手に爆弾付のブレスレットが付けられてしまったこと。
島から出ようとしたり、無理矢理外そうとすると爆発し両腕が吹っ飛び、もう料理が出来なくなってしまいます。
もうひとつは、“東の海”の海上レストラン“バラティエ”のオーナーであり、サンジの育ての親「ゼフ」を人質に取られたこと。
おそらくは「お茶会の招待状」のときもビッグ・マム海賊団にゼフを人質にされたのでしょうが、それはお茶会に行けば済むだけの話。
しかしジェルマは、結婚しなければゼフを殺す、と脅してきました。
これでサンジに逃げ場が無くなったのです。
ここまでが、サンジが脱退しなければならない理由です。
ブルックの「彼にもう戻る気がありません」について
ちょっと遡りますが、サンジが手紙を残して消えた時、ブルックだけは「彼にもう戻る気がありません」と泣いてましたね。
この時のサンジはまだ戻るつもりだったのにも関わらず。
ブルックがそう思うのには理由があるんです。
思い返せば、50巻。
“前半の海”スリラーバーク編です。
ゲッコー・モリア一味をやっとの思いで倒し、全員ボロボロの状態のときに、七武海バーソロミュー・くまが現れ、あわや全滅という大ピンチに。
この時、サンジは自分の命を身代わりにすることで、ルフィやゾロ達を見逃してもらおうとしました。
結局はゾロに止められて身代わりになったのはゾロだったのですが、「悪ィがコックならまた探してくれ」と死ぬ覚悟はすでに整っていました。
この一連が、“スリラーバーク身代わりの一件”です。
そして、このやりとりの一部始終をブルックが見ていたのです。
ではブルックは“サンジの手紙”を見て、何を思ったのか。
その答えがこれです。
「サンジさんはね優しいんです」
「だから私、彼はもう帰って来ないと思った」
「彼は度を超えて優しいから!」
「誰かの為に犠牲になると決めたらもう動かない!!」
そう、サンジの自己犠牲心。
それを最年長のブルックはよくわかっていました。
手紙を書いた時点ですでに自己犠牲心は働いていたのです。
サンジの自己犠牲心
実際ブルックの読みは当たっています。
以前にもサンジは、ゼフとゼフの夢「レストランバラティエ」のために犠牲になろうとしましたし。
レストランで働いてゼフに恩返しする為に、“オールブルーの夢”を無意識のうちに押し殺していたんです。
それを気付かせてくれたのがルフィでありゾロなのですが。
それでもなお、恩義を尽くそうとするサンジの“夢への道”を開いてくれたのは、他ならぬゼフ本人でした。
ええ話でしょ。
過去の脱退事例から考える
さて、少し逸れましたが本題は、なぜサンジは“裏切り”をしなければならなかったのか。
これを考えてみましょう。
仲間が脱退する事例は、過去にも3パターンありましたね。
それに照らし合わせてみます。
1.ビビの場合
「私・・・一緒には行けません!」
「冒険はまだしたいけど、私はやっぱりこの国を」
「愛してるから!!!」
ビビは、王女としてアラバスタに残ることを選択しました。
ビビが誰よりも国を愛してることは、共に戦ってきたルフィ達は百も承知。
快くビビとの別れを受け入れました。
一方、サンジにはこうした理由はありません。
むしろ国は嫌いなハズ。
この脱退パターンはサンジ的に“無し”でしょう。
2.ロビンの場合
自分の背負った「闇」の運命が、ルフィ達を危険に晒してしまう。
それを防ぐ為に自ら姿を消したロビン。
しかし。
それを知った麦わらの一味は、脱退を認めず、どこまでも追いかけてきて、ロビンを助けようと世界を敵に回してでも戦う。
サンジの場合にしても、もし正直に理由を話したとしても、その為にルフィ達はやっぱり戦おうとするでしょう。
おそらくサンジも、自分のことで皆にそんな迷惑をかけられないと思うはずです。
特に、ゾロが言うように今はカイドウとの対決に集中しなければならない時期なのですから。
だからこそ、一人でケリをつけようと出てきたのですから。
このパターンでは脱退自体が成立しません。
サンジもその事をよくわかっていたでしょう。
3.ウソップ
ゴーイング・メリー号を巡って、意見の食い違いから大ゲンカに発展して、そのままケンカ別れになってしまいました。
ルフィはこの時、ウソップの脱退を認めていますから、ケンカパターンなら“有り”かもしれません。
ただし、ケンカはあくまで“ケンカ”であり、“裏切り”ではありませんし、ルフィとサンジにはとりあえずケンカする理由がありません。
それに、“意見の食い違いからのケンカ”は本来あってはならないこと。
なぜなら、“船長は絶対”だからです。
「船長が威厳を失った一味は必ず崩壊する!」
船長ルフィの意見はクルーにとって常に正しいものなのです。
それに、気まぐれや冗談で、一味を抜けたり戻ったりするわけにはいかないのです。
「一味を抜けるってのはそんなに簡単な事なのか!?」
「おれ達がやってんのはガキの海賊ごっこじゃねェんだぞ!」
「ナミさん・・・残念ながら今回ばかりはコイツの言う事は正しい・・・!」
ゾロがルフィ以上に船長らしいのは置いといて。
海賊として船に乗ったからには仲間と命を預け合う。
大好きなナミさんを否定してまで、大嫌いなゾロの意見に賛成するほど、それは鉄則であり、またサンジはそういったスジを通す男なのです。
つまり・・・
ルフィとケンカするならば脱退出来るかもしれないが、サンジが麦わらの一味である以上、ケンカ別れはスジが通らない。
ということは、そう、“裏切り”しか脱退の道はなかったのです。
(正確に言うと“裏切り”は“脱退”じゃないんですけどね。)
ルフィが迎えに来た事はサンジにとって想定外だったようで、“裏切り”という選択は、できることなら避けたい苦渋の決断でした。
そしてサンジは自分が脱退すれば、全て丸く収まると考えていました。
ルフィの“駄々”
ちなみに、ルフィはサンジの裏切りを、“駄々をこねる”という手段で認めませんでした。
これ“駄々”ですよね。
「おれはここで待ってるからな!」
「お前が戻ってこねェなら、おれはここで餓死してやる!!」
これについてもまた思う事がありますので、いつか解釈を。
ケジメ
でも、実はまだ正式には仲間に戻っていません。(86巻現在)
お茶会と結婚式をブッ壊して無事に逃げられたら、の話ということです。
つまりビッグ・マム編が終わったら、ということですね。
ナミもまだ「絶対に許さない」「だけど一旦忘れましょ」と言ってるわけですしね。
まあ、とにかく戻って来ることになりそうで良かったですね。
ただこのままだと、あんな別れ方をした割りには、何となくぬるっと戻って来ただけなので、いずれ色々終わったら、サンジの方からルフィ達に何らかの“ケジメ”をつけることでしょう。
あの時ウソップがそうしたようにね。
以上、サンジの“裏切り”についての解釈でした。